Q.

死んだ父の書いた論文なのに他人の著作者名で販売されています。長男である私は父の名誉を守るためにはどうすればよいのですか。

 著作権の汎用的な質問  | 関連用語: 氏名表示権 著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護 著作者人格権 著作者名詐称の罪

A.

著作者名を改変した者に対し、出版物の販売差し止め及び回収、謝罪広告等の名誉回復措置、慰謝料の請求などの民事請求を行うことことができます。また、場合によっては、捜査機関にに対し、著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護違反の罪、又は氏名詐称の罪で告発し、刑事事件として取り上げてもらうことも可能だと考えます。

他人に著作者名を無断で変えられない権利は氏名表示権(第19条)といい著作者人格権の一つですが、著作者人格権は、権利の性質上、著作者の一身に専属する権利であり、著作者の死亡に伴って著作者人格権自体は消滅することになっています(第59条)。しかし、著作権法第60条は、著作物を公衆に提供したり提示する者は、その著作物の著作者が亡くなった後も、その著作者人格権を侵害することになるような行為をしてはならないとし、そうした行為をする者に対して、著作者の一定の遺族が、行為の差止め、名誉回復措置、損害賠償や慰謝料の請求することを認めています(第116条)。また、この第60条違反については、罰則の対象にもなっておりますが(第120条)、著作権侵害の罪の場合のように親告罪ではないので、仮に民事請求のできる遺族がいなかったとしても、捜査機関の独自の判断で捜査し、必要に応じ起訴できることになります。なお、氏名詐称の罪については、著作者でない者の名前を付け販売等を行った者を罰するものですが、これは著作者の著作者人格権や人格的利益を保護するものではなく、社会を欺いて利益を得ようとする行為を罰するものです(第121条)。

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用語の説明

氏名表示権
著作者人格権又は実演家人格権の一つです(第19条、第90条の2)。

著作者人格権の場合は、自分の著作物を公表する時に、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば「実名」(本名)か「変名」(ペンネーム等)かなどを決定できる権利です(第19条)。

ただし、著作物の利用目的や態様に照らして、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、著作者名の表示を省略することができます。例えば、ホテルのロビーでBGMを流している場合に、いちいち作曲者名をアナウンスする必要はありません。

なお、実演家人格権は、平成14(2002)年の改正で創設された権利ですが、氏名表示権の内容については基本的に著作者人格権のそれと同様の権利です。
著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護
著作者人格権は著作者の死亡(法人の場合は解散)とともに消滅します(第59条)。しかし、著作者が死亡してしまうと、日記を公表したり、氏名を変えたり、内容を改変することが自由に出来てしまっては問題がありますので、著作者が死亡等により存しなくなった後であっても、仮に著作者が存しているとしたら著作者人格権の侵害となるような行為を行うことを禁じています(第60条)。なお、第60条違反について、一定の遺族は差し止め等の民事的な対抗手段が可能です(第116条)。また、罰則の適用もあります(第120条)。
著作者人格権
著作者の人格的な利益について、法律上の保護を図るものです。著作者人格権は、その性質上、著作者固有の権利として認められるものであり、他人に譲渡することができない「一身専属的な権利(第59条)」とされています。

著作者人格権には、公表権(第18条)、氏名表示権(第19条)、同一性保持権(第20条)がありますが、これらを侵害しない行為であっても、著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為は、著作者人格権の侵害とみなされます(第113条第6項)。
著作者名詐称の罪
著作者名を偽って著作物の複製物を頒布する行為は、著作権法第121条により犯罪となっており、罰則の対象となります。
これは、世人を欺く詐欺的行為の防止の見地、及びこれに付随して著作名義者の人格的利益の保護の見地からによるものです。