Q.

俳優である私が出演して製作された映画を試写会で見たのですが、私の名前が出演俳優の一覧(スーパー)にありませんでした。私は映画会社に対し劇場配給のときは、私の名前を入れるよう要求することができますか。

 演劇の著作権  | 関連用語: 実演家人格権 氏名表示権

A.

原則として要求はできます。

実演家は、その実演が公衆に提示される際は、その氏名や芸名を実演者名として表示し、あるいは表示しない権利が認められていますので(第90条の2)、映画に出演した俳優は、自分の名前を出演俳優一覧に載せるよう要求することができるのが原則です。ただし、例えば、多数の実演家が参加し、また端役から主演まで様々な立場の者が出演する映画のような場合は、長い映画の歴史の中で培われた出演俳優一覧の掲載に関する業界ルールもあることから、「公正な慣行に反しないと認められるときは省略することができる。」とされています。したがって、あなたが業界慣行に照らして氏名表示が省略されてもやむを得ない立場である場合には、相手に表示を拒否されてもそれ以上の要求はできないと考えてください。

用語の説明

実演家人格権
実演家の人格的利益を守る権利です。平成14(2002)年の改正で追加されました。 著作者人格権は、「公表権」(第18条)、「氏名表示権」(第19条)及び「同一性保持権」(第20条)の3つの権利がありますが、実演家人格権は、「氏名表示権」(第90条の2)、「同一性保持権」(第90条の3)の2つの権利となっており、実演家には「公表権」が付与されていません。これは、実演が行われる際には、公表を前提として行われることが多いことによるものです。

ア 氏名表示権

自分の実演について、実演家名を表示するかしないか、表示するとすればその実名か変名(芸名等)かなどを決定できる権利です(第90条の2)。
ただし、実演の利用の目的及び態様に照らして、「実演家の利益を害するおそれがないとき」又は「公正な慣行に反しないとき」は、実演家名を省略することができます。例えば、BGMとして音楽を利用する場合に氏名表示を省略することが、これに当たります。

イ 同一性保持権

自分の実演について、無断で名誉声望を害するような改変をされない権利です(第90条の3)。
著作者の同一性保持権の場合は、意に反する改変のすべてについて権利が及びますが、実演家の同一性保持権は名誉声望を害するような改変のみに権利が及んでおり、侵害があった場合には、権利者である実演家が名誉声望を害されたということを立証しなければなりません。
また、実演の性質やその利用の目的・態様に照らして、「やむを得ない」と認められる場合や、「公正な慣行に反しない」場合は、除かれます。例えば、ある映画を放送する場合に、放送時間枠に適合するように再編集するようなことが、これに当たります。
氏名表示権
著作者人格権又は実演家人格権の一つです(第19条、第90条の2)。

著作者人格権の場合は、自分の著作物を公表する時に、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば「実名」(本名)か「変名」(ペンネーム等)かなどを決定できる権利です(第19条)。

ただし、著作物の利用目的や態様に照らして、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、著作者名の表示を省略することができます。例えば、ホテルのロビーでBGMを流している場合に、いちいち作曲者名をアナウンスする必要はありません。

なお、実演家人格権は、平成14(2002)年の改正で創設された権利ですが、氏名表示権の内容については基本的に著作者人格権のそれと同様の権利です。