映画に出演している俳優(実演家)の著作隣接権は及びません。
著作権法は、実演家にその実演を「送信可能化」(インターネットにアップロード)する権利を認めています(第92条の2)。しかし、映画には多数の実演家が出演することから、利用許諾手続きの円滑化を図るために、実演家の了解を得て一旦映画に録音・録画された実演に関しては、映画の利用(ビデオ化、放送、インターネット送信など)について著作隣接権が働かないと定めています(第92条の2第2項等)。したがって、実演家としては、最初の出演契約の際に、映画製作者との契約で追加の報酬について取り決めておくなど、自分の利益を確保しておく必要があります。
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用語の説明
- 実演家
- 実演を行った者(俳優、舞踊家、歌手など)、実演を指揮した者又は実演を演出した者をいいます(第2条第1項第4号)。
- 送信可能化権
- 「実演家」、「レコード製作者」、「放送事業者」及び「有線放送事業者」が有する著作隣接権の一つで、それぞれ次のような内容となっています。
(実演家)
(ア)生の実演
自分の「生の実演」を、サーバー等の「自動公衆送信装置」に「蓄積」・「入力」することにより、「受信者からのアクセスがあり次第『送信』され得る」状態に置くことに関する権利です(第92条の2)。
(イ)レコードに録音された実演
レコードに録音された実演を送信可能化する場合にも権利が働きます(第92条の2)。
(ウ)映画の著作物に録音・録画された実演
実演家の了解を得ないで映画の著作物に録音・録画された実演を用いる場合に権利が働きます(第92条の2第1項)。なお、サウンドトラック盤等を用いる場合については、実演家の了解の有無に関わらず権利が働きます(第92条の2第2項第2号)。
(レコード製作者)
レコードを、サーバー等の「自動公衆送信装置」に「蓄積」・「入力」することにより、「受信者からのアクセスがあり次第『送信』され得る」状態に置くことに関する権利です(第96条の2)。
(放送事業者)
放送(放送を受信して行う有線放送の場合を含む)を受信して、インターネット等で送信するために、サーバー等の「自動公衆送信装置」に「蓄積」「入力」することにより、「受信者からのアクセスがあり次第『送信』され得る」状態に置くことに関する権利です(第99条の2)。
この権利は、いわゆる「ウェブキャスト」のように、受信した番組を録音・録画せず、(サーバー等を通じて)そのまま流す場合が対象です。
(有線放送事業者)
有線放送を受信して、インターネット等で送信するために、サーバー等の「自動公衆送信装置」に「蓄積」「入力」することにより、「受信者からのアクセスがあり次第『送信』され得る」状態に置くことに関する権利です(第100条の4)。
この権利は、いわゆる「ウェブキャスト」のように、受信した番組を録音・録画せず、(サーバー等を通じて)そのまま流す場合が対象です。 - 著作隣接権
- 著作物等を「伝達する者」(実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者)に付与される権利です。著作隣接権は、実演等を行った時点で「自動的」に付与されるので、登録等は不要です(無方式主義)。
こうした「伝達」は様々な形態で行われていますが、条約の規定や諸外国の著作権法では、多くの場合「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」の三者が、著作隣接権を持つ主体とされています。しかし、日本の著作権法はこれよりも保護が厚く、「有線放送事業者」にも著作隣接権を付与しています。 - ワンチャンス主義
- 実演家の著作隣接権の一つに録音権・録画権がありますが、この権利は、映画の製作時に、自分の実演を録音・録画することを了解した場合には、以後その実演を利用することについて原則として権利が及びません(第91条)。したがって、映画に出演する俳優は、最初の出演契約の際に、例えば映画の二次利用(DVD化、CS等への販売等)について、条件などを取り決めて許諾するかどうかのチャンスがあるという意味でワンチャンス主義という言葉が使われています。