Q.

20年前に亡くなった私の恩師の未公表の絵画が発見されました。とてもいい絵なので公開したいと考えているのですが著作権の問題はありますか。

 絵の著作権  | 関連用語: 公表権 著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護 著作者人格権 著作者人格権の一身専属性 展示権 複製権

A.

諸般の状況にもよりますが、原則として、画家の遺族の了解が必要と考えてください。

著作者は、著作物を公表するかどうかを決める権利である公表権を有していますが(第18条)、この権利を含む著作者人格権は著作者の死亡により消滅します(第59条)。しかし、公表権が消滅したからといって、未公表の著作物を公表できるわけではなく、著作者の死後も、公表権の侵害に相当するような行為は原則として禁じられています(第60条)。また、このような行為に対しては、刑事罰の規定(第120条)がある他、著作者の遺族が差止めなどを求める訴訟を起こすことが認められています(第116条)。したがって、後日の紛争を未然に防ぐという意味で、公表について事実上遺族の了承を得ておいた方がよいと考えられます。

また、財産権としての著作権については、画家の死亡により消滅するわけではありませんので、利用の方法に応じ、絵画の原作品の展示や複製について(展示権(第25条)、複製権(第21条))、著作権者の了解が必要になってきます。質問の場合は、著作権は遺族に相続されている可能性が高いと考えられますので、この点からも遺族の了解が必要だといえます。

関連する質問

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用語の説明

公表権
著作者人格権の一つで、まだ公表されていない自分の著作物について、それを「公表するかしないかを決定できる権利」(無断で公表されない権利)です(第18条)。 ただし、「未公表の著作物」の「著作権 (財産権)」を譲渡した場合や、「美術の著作物の原作品」や「写真の著作物で未公表のものの原作品」を譲渡した場合などには、著作物の公表に同意したものと推定されます。
著作者が存しなくなった後における人格的利益の保護
著作者人格権は著作者の死亡(法人の場合は解散)とともに消滅します(第59条)。しかし、著作者が死亡してしまうと、日記を公表したり、氏名を変えたり、内容を改変することが自由に出来てしまっては問題がありますので、著作者が死亡等により存しなくなった後であっても、仮に著作者が存しているとしたら著作者人格権の侵害となるような行為を行うことを禁じています(第60条)。なお、第60条違反について、一定の遺族は差し止め等の民事的な対抗手段が可能です(第116条)。また、罰則の適用もあります(第120条)。
著作者人格権
著作者の人格的な利益について、法律上の保護を図るものです。著作者人格権は、その性質上、著作者固有の権利として認められるものであり、他人に譲渡することができない「一身専属的な権利(第59条)」とされています。

著作者人格権には、公表権(第18条)、氏名表示権(第19条)、同一性保持権(第20条)がありますが、これらを侵害しない行為であっても、著作者の名誉又は声望を害する方法により著作物を利用する行為は、著作者人格権の侵害とみなされます(第113条第6項)。
著作者人格権の一身専属性
「著作者人格権」は、著作者が精神的に傷つけられないようにするための権利であり、創作者としての心情を守るためのものであることから、これを譲渡したり、相続したりすることはできないこととされています (第59条)。
展示権
「美術の著作物の原作品」と「未発行の写真の著作物の原作品」のみを対象として付与されている権利で、これらを公衆向けに「展示」することに関する権利です(第25条)。

原作品とは、美術の著作物にあっては、例えば、画家が描いた絵そのもののことです。 また、写真については、ネガは原作品ではなく、当該ネガから作成された写真が原作品となります。なお、鋳造品、版画、写真等については、例えば、写真の場合、オリジナルネガからは同じ写真が何枚も作成できることになりますが、これらの写真はすべて原作品(いわゆるオリジナルコピーといわれるもの)になります。

また、通常、絵画が売買されても、売主から買主へ移転するのは、物としての絵画の「所有権」だけで、「著作権」は、著作権を譲渡するという契約が行われていなければ、著作権者が引き続き持っています。

したがって、物としての絵画を購入しても、著作権者に無断で「コピー」や「展示」は原則としてできないことになりますが、「美術の著作物等の原作品の所有者による展示」については、例外が認められています(第45条)。

【例外が認められる要件】
ア 「美術」または「写真」の著作物であること
イ オリジナル(原作品)の「所有者自身」または「所有者の同意を得た者」が展示すること
ウ 美術の著作物のオリジナルを、街路・公園等や、ビルの外壁など一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置する場合でないこと
複製権
手書き、印刷、写真撮影、複写、録音、録画、パソコンのハードディスクやサーバーへの蓄積など、どのような方法であれ、著作物を「形のある物に再製する」(コピーする) ことに関する権利で、すべての著作物を対象とする最も基本的な権利です。「生」のものを録音・録画・筆記するようなことも含まれます(第21条)。

なお、脚本等の演劇用の著作物の場合は、それが上演・放送されたものを録音・録画することも、複製に当たります。

また、建築の著作物に関しては、その「図面」に従って建築物を作ることも、複製に当たります (建築に関する図面自体は、「図形の著作物」として保護されます)。