論文の場合は一般に公衆送信に該当しませんが、プログラムの場合は該当します。
公衆送信というのは、原則として公衆(不特定又は特定多数の者)によって直接受信されることを目的として、有線・無線を問わず送信することをいいます(第2条第1項第7の2号、第23条第1項)。一般的にはインターネット送信や放送・有線放送が該当します。放送・有線放送のように同時に多数の人に送信するか、利用者の求めに応じ当該利用者に送信するかを問いません。このことから、会社のLAN設備を使って、社内で構築したデータベースから、社員の求めに応じ送信する場合も公衆送信に該当するように見えますが、コンサート会場等のマイク設備を使って別室やホールに音楽を流すことなどとのバランスを取るため、同じ建物の中で有線LANや無線LAN等を用いて配信することは、公衆送信とはしないということになっております(第2条第1項第7の2号)。なお、コンピュータ・プログラムについては、他の著作物と異なり1つのプログラムを多数の人が使用すると権利者が大きな経済的損失を被ることを考慮し、例外的に公衆送信に該当するものと取り扱っています。
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用語の説明
- 公衆
- 著作権法での「公衆」とは、「不特定の人」又は「特定多数の人」を意味します(第2条第5項)。
相手が「ひとりの人」であっても、「誰でも対象となる」ような場合は、「不特定の人」に当たりますので、公衆向けになります。例えば、「上映」について言うと、1人しか入れない電話ボックス程度の大きさの箱の中でビデオを上映している場合、「1回に入れるのは1人だが、順番を待って100円払えば誰でも入れる」というときは「公衆向けに上映した」ことになります。 また、「送信」について言えば、ファックス送信などの場合、1回の送信は「1人向け」ですが、「申込みがあれば『誰にでも』送信する」というサービスを行うと「公衆向けに送信した」ことになります(これを自動的に行っているのがサーバーなどの自動公衆送信装置)。
さらに、1つしかない複製物を「譲渡」「貸与」するような場合、「特定の1人」に対して、「あなたに見て(聞いて)欲しいのです」と言って渡す場合は「公衆」向けとはなりませんが、「誰か欲しい人はいませんか?」と言って希望した人に渡した場合は、「不特定の人」=「公衆」向けということになります。
「特定多数の人」を「公衆」に含めているのは、「会員のみが対象なので、不特定の人向けではない」という脱法行為を防ぐためです。何人以上が「多数」かは著作物の種類や利用態様によって異なり、一概に何人とはいえません。
「不特定」でも「特定多数」でもない人は「特定少数の人」ですが、例えば「電話で話しているときに歌を歌う」とか「子どもたちが両親の前で劇をする」といった場合がこれに当たり、こうした場合には著作権は働きません。 - 公衆送信
- 公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことをいいます(第2条第1項第7の2号)。公衆送信は、その利用形態によって、放送や有線放送のように同一の内容を同時に公衆へ送信する形態のもの(第2条第1項第8号、第2条第1項第9号の2)と、インターネット送信のように利用者のリクエストに応じて送信する形態の2つに大別されます。また後者は、更にホームページに掲載された情報が利用者の求めに応じ送信されるように送信行為が自動的に行われるものを「自動公衆送信」(第2条第1項第9の4号)と呼び、ファックス送信のように利用者の求めに応じ手動で送信する場合と区別しています。これは、自動公衆送信については、ホームページに情報を掲載している状態すなわち利用者の求めがあればいつでも送信できる状態に置くことを「送信可能化」(第2条第1項第9の5号)の状態とし公衆送信の概念に含めているからです。したがって、権利者側から見れば、自分の著作物がホームページに掲載されている状態をもって公衆送信権(第23条第1項)侵害を主張できるため、送信行為があったことの立証負担が軽減されることになります。
なお、同一の建物内や敷地内で有線LANもしくは無線LANを用いて送信する行為は、コンサート会場でのマイク設備を用いて行う送信等とのバランスを考慮し、プログラムの著作物を除き公衆送信には該当せず、例えば音楽の演奏、脚本の上演、映画の上映、本の口述に該当することになっています。