Q.

私は舞台の演出家ですが、私の演出した舞台が無断でビデオ販売されていますが、私は権利を主張できるのでしょうか。

 演劇の著作権  | 関連用語: 実演 実演家 実演家人格権 著作隣接権

A.

あなたは、権利侵害者に対し、実演家人格権及び著作隣接権を主張できると考えられます。

著作権法では、実演を演出する者も実演家に含めています(2条1項4号)。したがって、舞台の内容を無断でビデオ撮影した者、ビデオを製造・販売している者に対して、演出家の持つ著作隣接権(録音権・録画権(第91条)、譲渡権(第95条の2))の侵害として、民事上・刑事上の対抗措置を取ることができます。また、ビデオに演出家としての氏名表示がなかったり、舞台の内容をカットしていれば、実演家人格権(氏名表示権(第90条の2)や同一性保持権(第90条の3))の侵害を主張できる場合もあると考えられます。

用語の説明

実演
著作隣接権の保護の対象です。実演とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演じること」や、「著作物以外のものを演じる場合で芸能的な性質を有するもの」のことをいいます(第2条第1項第3号)。

著作物以外のものを演じる場合で芸術的な性質を有するものとは、具体的には、奇術、曲芸、手品、物真似などのことです。なお、体操の「床運動」や、「フィギュアスケート」の演技などは、「競技」として行われるもので、「芸能」ではないので、実演ではありませんが、同じような行為でもアクロバットショーやアイススケートショーのように、「観客向けのショー」として行われるものは実演になります。
実演家
実演を行った者(俳優、舞踊家、歌手など)、実演を指揮した者又は実演を演出した者をいいます(第2条第1項第4号)。
実演家人格権
実演家の人格的利益を守る権利です。平成14(2002)年の改正で追加されました。 著作者人格権は、「公表権」(第18条)、「氏名表示権」(第19条)及び「同一性保持権」(第20条)の3つの権利がありますが、実演家人格権は、「氏名表示権」(第90条の2)、「同一性保持権」(第90条の3)の2つの権利となっており、実演家には「公表権」が付与されていません。これは、実演が行われる際には、公表を前提として行われることが多いことによるものです。

ア 氏名表示権

自分の実演について、実演家名を表示するかしないか、表示するとすればその実名か変名(芸名等)かなどを決定できる権利です(第90条の2)。
ただし、実演の利用の目的及び態様に照らして、「実演家の利益を害するおそれがないとき」又は「公正な慣行に反しないとき」は、実演家名を省略することができます。例えば、BGMとして音楽を利用する場合に氏名表示を省略することが、これに当たります。

イ 同一性保持権

自分の実演について、無断で名誉声望を害するような改変をされない権利です(第90条の3)。
著作者の同一性保持権の場合は、意に反する改変のすべてについて権利が及びますが、実演家の同一性保持権は名誉声望を害するような改変のみに権利が及んでおり、侵害があった場合には、権利者である実演家が名誉声望を害されたということを立証しなければなりません。
また、実演の性質やその利用の目的・態様に照らして、「やむを得ない」と認められる場合や、「公正な慣行に反しない」場合は、除かれます。例えば、ある映画を放送する場合に、放送時間枠に適合するように再編集するようなことが、これに当たります。
著作隣接権
著作物等を「伝達する者」(実演家、レコード製作者、放送事業者、有線放送事業者)に付与される権利です。著作隣接権は、実演等を行った時点で「自動的」に付与されるので、登録等は不要です(無方式主義)。

こうした「伝達」は様々な形態で行われていますが、条約の規定や諸外国の著作権法では、多くの場合「実演家」「レコード製作者」「放送事業者」の三者が、著作隣接権を持つ主体とされています。しかし、日本の著作権法はこれよりも保護が厚く、「有線放送事業者」にも著作隣接権を付与しています。